創傷ケアセンターのご案内

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創傷ケアセンターのご利用は、診察時に医師にご相談ください。

病院長写真「傷口は、消毒して乾かすことが大切」と思ってらっしゃる方がまだまだ多いのではないでしょうか。最近の創傷治療の考えは「傷口は湿潤環境におき、消毒は化膿している場合を除き不必要」とされています。しかも近頃では高齢化や成人病の増加により糖尿病や血流障害に伴う潰瘍が増加してきており、病院に創傷治療を専門に扱う部門の必要性が高まっています。 当院では減圧症や難治性の骨髄炎、慢性皮膚潰瘍に対して他施設に先駆けて高気圧酸素治療を導入し、良好な成績を修めて参りました。最近のアメリカでは、増加している糖尿病性の足趾病変に対して高気圧酸素治療が積極的に行われ、効果を上げていることが多数報告されています。当院においても、この高気圧酸素治療を創傷治療に取り入れております。

≪病院長  川嶌 眞之≫

高気圧酸素治療の効果

高気圧酸素治療(HBO)とは大気圧よりも高い圧力(2気圧以上)で純酸素を吸入する酸素療法の一種です。高気圧下で純酸素を吸入することで、ヘンリーの法則に従って体内の酸素量は増加します。豊富な酸素の供給によって様々なケガや疾患に対して効果が得られます。 創傷に対して高気圧酸素治療が働くメカニズムは、①損傷を受けた組織の線維芽細胞の活性化、②血管新生の促進、③抗菌作用亢進があげられます。創傷治癒の予後を左右する要因の一つに循環(酸素の供給)があげられます。十分な酸素の供給は、傷の治りを早くすることに有効です。酸素の供給が不十分な場合、傷がいつまでも治らなかったり、重度のものでは切断しなければならなかったりします。高気圧酸素治療は体内の酸素量を増加させ、治癒期間を短縮することが期待されます。治癒期間の短縮は、傷による痛みから解放されるだけでなく、通院にかかる時間や治療費用の面から見ても大変効果的だと思います。

高気圧酸素治療装置

高気圧酸素治療は“高気圧酸素治療装置”という潜水艦のような鋼鉄でできた円筒型の部屋の中で行います。当院の治療装置は第2種高気圧治療装置とよばれるもので、6人ぐらいが同時にゆったり座れる広さがあります。

高圧タンク外写真  高圧タンク内部写真

高気圧酸素治療と酸素カプセル

最近、テレビや新聞・雑誌などでも紹介されている通称“酸素カプセル”と呼ばれる装置をご存知でしょうか?スポーツ選手がケガから復帰するまでの期間を短縮したり、試合前後や練習後にコンディション調整目的で行なったりすることがあるようです。酸素カプセルは、布地でできた膨張式のチャンバーの中に入り、空気を送り込んで膨らませ、その中で1時間ぐらい横になって休むような形式のものが多いようです。酸素カプセルの中は1.3気圧ぐらいの空気であり、呼吸ガスも空気(酸素濃度は21%)となります。したがって酸素カプセルの効果は、“通常よりも高い気圧で呼吸することで体内の酸素量を増加させることによる。”とされています。高気圧酸素治療と原理は同じですが、高気圧酸素治療と酸素カプセルで異なる点は、治療気圧と吸入気酸素濃度です。体内の酸素量を増加させることが目的であれば、ヘンリーの法則に基づいて、より高い圧力でより高い酸素濃度を吸入する高気圧酸素治療の方が効率が良いといえます。

治療気圧 呼吸ガス 動脈血中の酸素分圧(通常比)
高気圧酸素治療 2.0~2.8気圧 純酸素(酸素濃度100%) およそ10~15倍
酸素カプセル 1.3気圧 空気(酸素濃度21%) およそ1.3倍

創傷治療における高気圧酸素治療の利用

創傷を生じる原因は、外傷、熱傷(やけど)、褥創(床ずれ)、血行障害、細菌感染などいろいろありますが、最近多くなっているのが糖尿病によるものです。近年、糖尿病患者の数は右肩上がりに増加しています。糖尿病患者の特徴として、痛みを感じにくい、細菌に感染しやすい、傷が治りにくいなどがあげられます。その結果、ケガをしても気づかないので放っておく→細菌に感染して傷が悪化する→ようやく気が付いて病院にやってくる→手遅れで切断するといった例も多くなっています。早期からの治療は切断率を下げます。その中でも高気圧酸素治療は重要な治療の一つになります。日本より糖尿病患者の多いアメリカでは、“創傷ケアセンター”として創傷治療の専門性を高める医療機関が増えています。そのセンターで高気圧酸素治療装置が創傷治癒促進の重要な治療手段として用いられています。

高気圧酸素治療中の酸素分圧

体内の酸素量を知る目安として”酸素分圧”を測る方法があります。高気圧酸素治療中に経皮的酸素分圧測定器という機械を使えば測定することができます。下のグラフは酸素分圧測定の結果です。治療開始と同時に装置内の圧力を高めていき(グラフ中①)、2気圧まであがったら100%濃度の酸素を吸います。酸素吸入の直後から急激に酸素分圧が上がっています(グラフ中②)。2気圧で酸素吸入を行っている間は、この患者さんの場合700~900mmHgに達したところで一定の値を保っています。圧力を下げると酸素分圧も徐々に下がってきます(グラフ中③)。このような高い酸素分圧も高気圧酸素治療では簡単に実現することができます。

酸素分圧グラフ